桔槹6月号から

写真は作者からの提供

初物の胡葱を掘る土いとし   小山 幸衛

胡葱は、食卓に春の訪れを告げる山野草として喜ばれる。その胡葱を「掘る」場面だが、作者のまなざしは、胡葱そのものよりも、それを育んだ「土」へと向けられている。春を生み出す源としての土を「いとし」と詠むことで、自然に対する深い愛着が伝わる。今回投句されたこの句の前後の句を読み、作者が山間の雪深い土地に暮らす人であることを考えれば、雪解けの土は単なる地面ではなく、生活と心を支えてくれる存在であるとさえ言える。「初物の〜を掘る(採る)」という句は俳句にはありがちな情景であるが、この句が際立っているのは、最後の「土いとし」にある。それは、長い冬を耐えてようやく春に出会った喜び、自然と共にあることへの感謝の「土が愛おしい」なのだ。

 

俳句には大きく分けて、技巧に富む句と、体験に裏打ちされた句とがあるが、この句は後者である。体験が深く、その体験に通じる言葉の選択が的確であるからこそ、飾らずとも読者の胸に届く。この句の魅力は、「ことばの技」より「まなざしの深さ」にあると言える。(選評:永瀬 十悟)