桔槹9月号から

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ゆらゆらと陰翳礼賛へちま棚  志田 公司

『陰翳礼賛』は谷崎潤一郎の随筆で、陰翳に富む日本の家屋の構造と、古き良き日本の美意識が密接な関係をもつことを論じたもの。何か高尚なもののようだが、この句は庶民の「へちま棚」にも陰翳の美があるというのが良い。ここで思い浮かぶのが子規庵の糸瓜棚だ。糸瓜の蔓からとった水が咳や痰を切るのに良いと作られた。子規の部屋の窓の前にあり、夏の強い日差しを和らげるような影を作っていた。亡くなる前の子規は、痛みをこらえながらこれを絵に描いたりして楽しんでいる。辞世の句に〈糸瓜咲て痰のつまりし仏かな〉がある。

(選評:永瀬 十悟)