桔槹4月号から

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枯蓮や鬼の酒盛りせしあとか  高市  宏

田や池に骸のように折れ立つ枯蓮の無残な姿は、誰の眼にもいつまでも付き纏う。上五の切れは、水の上で繰り広げられる、蓮の花の時空をも誘引している。夢のように揺れ咲いていた嘗ての蓮の花と、魂を喪い形骸化した枯蓮の凄惨な光景のギャップは大きい。蓮の花は仏教との関わりが深い花。そこには実在をこえたはるかなるものを感じる。魂を喪った枯蓮は立ち尽くすしかない。枯蓮が立ち尽くすように、誰もが自然の摂理に無力である。

 

「鬼の酒盛り」の措辞には、虚を衝かれた。忘我の底から押し出された作者の言葉だろう。何よりも、「せしあとか」とつぶやくように感情を抑えたところが巧み。冬深む風のないはるか西の空に一抹の茜色が見える。(選評:金子 秀子)