桔槹12月号から

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 街なかの無音おもたき酷暑かな  久保 悦子

今年(2023年)の夏は過去最高を大きく上回る暑さで、気象庁は「異常気象」と発表している。国連や国際機関も、世界各地で熱波や大雨、干ばつなどの極端な気象現象が起きており、地球温暖化が影響していると警告している。もう待ったなしの状況なのだ。

俳句は季語を織り込むことが基本で、そのために「歳時記」は欠かせないのだが、昨今の気候の変化では季語と季節がずれてしまっているのではと思うことがある。例えば須賀川の牡丹園の牡丹は、以前は五月の第二週辺りが見頃で、それに合わせて牡丹俳句大会を続けてきた。しかしここ十数年は四月下旬から五月上旬が見頃で、開園時期も早まっている。すると歳時記的には、立夏の前の春の花になってしまう。

さて掲句はその今年の酷暑を詠んだものだ。40度近い気温に通りに誰一人いない景を描いているが、「無音おもたき」が重苦しいまでの暑さを表現して秀逸だ。他に〈花付けしままに枯れゆく猛暑かな〉の句もある。まさに今年ならではの句であろう。このように具体的現れを詠むと臨場感がある。

他に〈打ち水のけぶりに消ゆる糸とんぼ〉の句にも惹かれた。現代の暑さに打ち水や団扇は役に立たないかもしれない。しかしこのような季語が象徴する豊かな日本の日常を大切にしたい。俳人こそエコロジーの先頭に立とう。

(選評:永瀬 十悟)