桔槹10月号から

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無数なる琴柱を立てて天の川  添田 喜彦

 川のように無数の星が密集し、空をとりまく天の川は年中見られるが、空の奥行きや伸びやかさは、やはり秋のものだろう。銀の砂の流れのようで美しい。掲句のキーワードは「琴柱を立てて」にある。琴柱は琴の胴の上に置かれ弦を支えている。無数の琴柱は空深く連なり弓なりの天の川が立ちあがって見える、という感性には独自性がある。

 譜面にも見える天の川のあたりに、もしや風が吹いたとしたならば、星は弾かれ澄んだ旋律が生まれるのではないか、とふっと想像の世界が開いた。

 あの高名な芭蕉の「荒海や佐渡に横たふ天の川」の句にあるように、天の川は「静かに横たわっている」と言う私の中にある天の川の概念が外された。「琴柱」を使い、漠然とした天の川を立たせて見せるという契機をこの句は孕んでいる。いい俳句ほど端正でエッセンスがある。(選評:金子 秀子)