95歳を迎えた森川光郎桔槹代表の第五句集『町空』が1月末に発刊された。常に新しいものを求める姿勢は95歳の今も変わらない。そのあとがきにはこうある。「・・・・一句をかくごとにこだわる。己の書いたものに対する反省と点検は、大事であるけれど、これらは決まって忘却の中に埋没していく」と。つまり、忘却の中に埋没することを拒み、許さない、許したくないのだ。そういう姿勢が我々を惹きつけてやまない。桔槹5月号では「私が選んだ一句」という特集ページを8ページに渡って組み、森川光郎の広く深い世界に近づこうと試みている。
桔槹同人 大河原真青の第一句集『無音の火』がこのほど満を持して発刊された(現代俳句協会刊・税別2、000円)。
帯文は桔槹の森川光郎代表、序文(序にかえて)は小熊座主宰の高野ムツオ現代俳句協会副会長だ。
珠玉の342句は以下の6章に分けて収録される。
1 波の音 二〇一四年以前
Ⅱ 鰓の痕 二〇一五年
Ⅲ 日の雫 二〇一六年
Ⅳ 月の暈 二〇一七年
Ⅴ 架空の町 二〇一八年
Ⅵ 花の奈落 二〇一九年
高野ムツオ氏「序にかえて」より抜粋
…その悲しみと慣りが十七音に結晶化している。た
とえば、避難を余儀なくされた町のさまを詠った次の
ような句。
国道を鉄扉が鎖す花の雨
真葛原けむりのやうに町は消え
わが町は人住めぬ町椋鳥うねる
…中略… 「町」とは商店や住宅と呼ばれる建物の呼
名ではないという、自明のことを現場に立つことで改
めて実感できた。人間が住んでこそ初めて町なのだ。
人間がいなければ、いかに現代的、先進的な建造物で
あっても古代の廃墟と何ら異なることはない。これら
の句はそうした町でなくなった町への鎮魂の祈りとそ
れを強いた人間への怒りに満ち満ちている。
水草生ふ被曝史のまだ一頁
この句の重さを今反芻しながら噛みしめている。